みなさんこんにちは、税理士の佐藤です。
前回のブログでのお知らせ通り、今回は対談記事です。
株式会社ストライク   市村鉄平様にお話を伺ってきました!

以前、引退時には医院を譲渡(売却)するという手がある、なんてお話をしました。この記事の反響が非常に大きく、“続編を!”とのお声を複数いただいておりました。
「それなら今度は、プロに聞いてみよう!」ということで、なんとM&A大手、株式会社ストライクの市村様にお話を伺ってきました。
たぶん、いま日本で一番動物病院のM&Aの現場を知っている人です。

  • 動物病院はM&A向いているのか?
  • どんな問題が起こってしまうのか?
  • どんな人が医院を買ってくれるのか?
  • 高く買ってもらうために気をつけるべきことは?

などなど聞いてきました。
ぜひ、ご一読くださいませ。

対談お相手のご紹介

市村 鉄平 様

大学卒業後、政府系金融機関へ入社。中小・ベンチャー企業から上場大手企業まで幅広く担当。
企業の実態分析からプロジェクトファイナンス、海外進出支援やM&A、IPOなどの資本・経営戦略に向けたソリューション提案などに従事。その後、現職の株式会社ストライクに入社。
動物病院業界のM&Aに着目し、動物病院業界を中心に多数の成約実績を誇る。2022年、2023年社内年間成績優秀者賞など受賞。


株式会社ストライク 様
上場しているM&A仲介大手の会社。
M&Aに特化した専門集団であり、重要業務に精通した公認会計士や税理士などの有資格者はもちろん、金融機関出身者が在籍しています。高度な専門知識やノウハウ、広範なネットワーク、柔軟な発想と行動力で最適な解決策を提供すべく、高い専門性と倫理観をもつメンバーで構成されています。
「M&Aは、人の想いでできている。」というコーポレートスローガンのもとM&A専門のアドバイザーがソーシングからエグゼキューションまでコンサルタントが一貫して担当してM&Aの成約まで伴走させて頂きます。
(市村鉄平)

動物病院はM&Aに向いている業種

佐藤明史海(以下、佐藤):中小企業の事業譲渡が活況のようですね。
経済産業省の中小M&A推進計画等、政策面から見ても、今後10年は件数は増加するのではないでしょうか。
動物病院業界も例外ではなく、弊社のお客様のなかにも、既存の医院を買い取っての開業というパターンが増えてきました。
既存医院を引き継いでの開業には、顧客やスタッフがスタート地点で確保されている等、大きなメリットがあります。
また、動物病院経営のエンディングとして、現状考えられる最良の選択肢であると、私は考えています。

院長先生の引退後の資金の確保、スタッフさんの雇用の維持、お客様への責任の全う等、様々な角度から有効な手段であると言えると思います。
しかし、M&Aに向いている業種、向いていない業種があるとも聞きます。
例えば、

  • 経営者の資質に依存する属人的なビジネスは向いていない
  • ストックビジネスは向いている

と聞いたことがあります。
動物病院は、“経営者の資質に依存する属人的なストックビジネス”と私は見ていますが、市村さんは、動物病院はM&Aに向いている業種だと考えますか?向いていない業種だと考えますか?

市村鉄平様(以下、市村):M&Aに向いている業種だと考えています。
たしかに経営者(獣医師)の資質に依存する部分はあります。
しかし一方で、グループ化を行うことで経営の効率化、人材の交流、診療レベルの向上、人材採用の強化、などに繋げることができます。
これは、売り手様、買い手様、双方にとってメリットが大きいと認識しています。

佐藤:スケールメリットが活かせる業種ということですね。
動物病院の事業譲渡に際してボトルネックとなることはどんなことでしょうか?

市村:動物病院のM&Aの主なスキームとして株式譲渡と事業譲渡があります。
株式譲渡は包括的に法人を譲渡する形になり手続きが簡便ですが、事業譲渡の場合は従業員の雇用契約のまき直しなどの手続きが発生するため従業員の転籍の同意をもらう必要があります。
丁寧に説明しないと従業員の退職のリスクがあるため、留意が必要です。

佐藤:これはよくわかります。M&Aでは人材流出の防止は肝要ですよね。
動物病院のことでいうと、ある意味では、顧客以上にスタッフの獲得が困難になってきていますので、特に注意が必要でしょうね。

動物病院の中でも、M&Aへの向き不向きはある

佐藤:動物病院はM&Aに向いている業種だというお考えは、私と同じで安心しました(笑)。
といっても、動物病院もその在り方はいろいろです。M&Aに向かない、あえてM&Aを勧めない動物病院の特徴はどのようなものでしょうか?

市村:院長が売上の大半を作っており、その院長がすぐ退任することが前提のM&Aですと買い手様に取っての動機がなくなってしまうため、M&Aを勧めていません。
一方で引継ぎ期間をしっかり(できれば2~3年)確保出来ている場合はこの限りではないかと思います。

佐藤:やはり属人化していると難しくなりますよね。
そして、実際の弊社のお客様で、院長交代した動物病院は4医院ございますが、たしかに、引き継ぎさえしっかりしていれば、心配するほどの影響はありませんでした。売上の落ち込みは、あっても一時的なものでした。

業務の仕組み化と経営数値の把握が肝要

佐藤:開業された院長先生とお話をしていると、数十年後の夢や不安に触れることも珍しくありません。獣医師として、経営者として、責任を全うし、また、引退後にはお金の面での不安のない生活を送るために、医院の売却は非常に良い選択肢であると私は考えています。
創業期、成長期から、将来の医院の譲渡に向けて意識した方が良いと思うことがあれば教えてください(買い手がつくようにするため、高額にするため)。

市村:動物病院の運営において属人的な部分はできるだけなくし、仕組化が出来ている病院だと売却をしやすい印象があります。
また獣医師一人あたりの売上高、診療単価、診療件数、手術件数、診療サービスの内容などを意識されるといいかと思います。

佐藤:やはり数値化して把握する、これが大事ですよね。数字は、悲しいくらい無慈悲に現実を示してくれますからね。私も日々、自事務所の数字はビクビクしながらも直視しています。
院長先生の皆さん、わかりましたね?
やっぱり税理士とは、毎月面談して数値の振り返りをしましょう。これで売却額が変わるんだから、税理士費用なんて安いものでしょう(笑)。

市村:それはまったくその通りだと思います。
佐藤さんのように、決算書や試算表を掘り下げて噛み砕いてくれる税理士さんは非常に貴重だし、M&Aの観点からもとても有利になると思います。

佐藤:ありがとうございます。菓子折を贈った甲斐がありました(笑)。
ところで、譲渡金額はどうやって決まるんですか?

市村:基本的にマルチプル法での評価になります。
EBITDAとNetCashが指標になり、一次診療の病院は1~4倍、規模が大きい病院や高度医療などをやっていると5~7倍程度が相場となっています。

佐藤

譲渡金額決定について、詳しく知りたい方はお問い合わせにてご質問ください。
アドレスをご存知の方は、直接佐藤までメールもOKです。

医院の買い手は、同業者、ペットショップ、ペット用品店、医薬品卸業者 等

佐藤:医院の買い手は、大手の動物病院や、これから開業する若い獣医師さんが多いと思います。
しかしながら、最近は、必ずしも同業者に限らないと聞きました。

市村:同業以外ですと、例えばペットショップ、ペット用品販売、ホームセンター、IT、医薬品卸などの業種の会社様が買い手となるケースがあります。
最近ですと投資ファンド様なども積極的に検討頂いております。

佐藤:これは面白いですね。私の他業種のお客様でも、本業の余剰資金を動物病院に投資したい、という経営者さんはいらっしゃいます。
動物病院は、安定した利益が見込めるストックビジネスですからね。

異業界が買手になるケース

佐藤:動物病院業界は、

  • 基本的に黒字ビジネス
  • 開業資金は高額(ここ数年は4~5,000万円の借入を創業時にするのが普通)

という特徴があります。
これを考えると、他業界からの出資による開業というやり方も向いているようにも思いました。
つまり
【出資者】他ビジネスで成功した会社や経営者が、投資先として動物病院を選択し、資金を提供して配当や役員報酬といった形で投資回収する
【獣医師】院長として自身の医院を持ちたいが、経営者としてのリスクは負えない又は負いたくない
 →この組み合わせのマッチングがあっても良いように思います。
他業界の会社や個人が、動物病院を買って、獣医師を雇って院長を置くといったケースはありますか?

市村:先ほど申し上げた通り、異業種の買い手様が候補先になるケースはあります。
一方で開業時に資金を出して支援するというよりはすでに稼働しており、ある程度収益が出ている動物病院を買収するという形がほとんどです。
異業種の買い手様は立ちあげノウハウがないので、初期投資のタイミングからは入りづらいため、このようになっています。

売却後も雇われ院長として医院に残るケースもある

佐藤:立ち上げノウハウのない異業種の買い手のために、税理士やコンサルタントがご協力出来るかもしれない、なんてことを今考えています。
経営者としての仕事や責任と、獣医師としての仕事や責任とではまったく違うので、院長にはなりたいけど、経営者にはなりたくない先生って結構いるんじゃないかなって思っています。開業された先生のなかにも、独立して自身の医院を持ったものの、経営者としての仕事に魅力を感じず、獣医師業に専念出来る環境に戻りたいと考える方も珍しくありません。
こういった先生に、いわゆる“雇われ院長”という道があれば良いのに、と思うことがあります。
売り手の院長が、雇われ院長として残るパターンはありますか?

市村:あります。
院長が残っていただく方が買い手様としても検討しやすいので、残っていただくことが多いです。
院長が抜けてしまうと他の獣医師のモチベーションが下がる可能性があるので、そのような観点からも残っていただいた方が宜しいかと思います。

実際のトラブル例

佐藤:M&Aは、どんなに誠実に、慎重に、交渉を進めたとしても、トラブルは起こるものと聞いたことがあります。
これまでどんなトラブルがありましたか?

市村:業界に慣れていない買い手様だと、基本合意後のデューデリジェンスのタイミングで労務の指摘などをしてくるケースがあります。
業界としてしっかり問題なくやっている動物病院がそもそも少ないことから、弊社では基本合意前にしっかりと説明を行った上でデューデリジェンスに入りますが、よくあるお話として共有させて頂きます。

佐藤

「デューデリジェンス」とは、
買い手が、対象医院の財務などに関する情報が真実であるかを調査することです。DDと表記されることもあります。

売却後も、スタッフの雇用は守られる

佐藤:業種問わず、人材の確保が、経営の成否を分ける大きな要素になっていると思います。個人的には、顧客の獲得以上に重要であると考えています。
こういった情勢のなかでは、医院の買い手側から見ると、既に教育され、現場を良く知るスタッフさんが最初から確保されていることは、既存医院を買い取ることの大きなメリットの一つです。
その分、医院のトップや体制の変化による離職が心配です。
院長交代後の、一年以内スタッフ離職率はどのくらいですか?

市村:弊社が仲介させて頂いた動物病院様で大きく離職に繋がったお話は聞いていないので、離職率は低いと推察しています。
クロージング前に、買い手様の方針を売り手のオーナー様、場合によっては残られるキーマンの方々にお伝えし、譲渡後のスムーズな運営に繋げています。

佐藤:なるほど。それなら安心ですね。
既存顧客の維持やスタッフの退職防止のために、旧院長(売り手)と新院長(買い手)が一緒に働く「伴走期間」はあるのが普通ですか?

市村:イメージとしては売り手サイドの副院長の方が新院長になるケースが多いです。買い手側も院長クラスの獣医師の先生はすでにフル稼働のケースが多いのが理由です。
仮に伴走するとなると、少なくとも3か月は必要だというお話が多いです。

佐藤:ありがとうございます。

M&Aは、お客様に感謝される非常にやりがいのある仕事

佐藤:市村さんがこのお仕事をしてきた中で、悔やまれる経験があれば教えてください。

市村:日々の活動の中で、廃業を決断されている動物病院様ともお会いすることがあります。
事業の縮小前の、もう少し早いタイミングで弊社とアプローチしていれば、廃業ではなくM&Aのご提案が出来たのでは……と感じることがあります。

佐藤:これは、顧問税理士からの提案があっても良さそうなものですよね。

市村:案外、佐藤さんのような視点を持った税理士さんは少ないですからね。

佐藤:帳簿や申告書の作成だけやるっていう税理士さんが多いのかもしれませんね。
院長先生は、経営助言が欲しいでしょうし、税理士は、もっと先生たちの相談相手にならないといけないと思っています。
市村さんがこのお仕事をしてきた中で嬉しかった経験はどんなことでしょうか?

市村:売り手オーナー様にとっては大きなイベントですので、クロージングまで行くと非常に感謝されます。
弊社としては、過去の動物病院のM&Aの実績をベースに売り手様の意向に沿った精度の高いM&Aを目指しており、最近だとその点を評価していただくことも増えてやりがいに繋がっています。

佐藤:市村さんのお仕事は、買い手さん、売り手さんに限らず、スタッフさんとそのご家族、お客様、金融機関をはじめとするステークホルダーなど、たくさんの人を守る仕事ですよね。社会のインフラの維持にも大きな役割を果たしている。
市村さんご自身は、M&Aというビジネスのやり甲斐はどんなところだと思っていますか?

市村:これまでオーナー様が人生をかけて築き上げてきた会社様の襷をつなぐ仕事となりますので、特にクロージングのタイミングは非常にやりがいを感じます。M&Aという手法だからこそできる課題の抜本的な解決や事業の成長支援という側面も醍醐味の一つだと理解しています。
ところで、佐藤さんはなぜ動物病院を顧問先に選んだのでしょうか?

佐藤:獣医師の先生といっても十人十色ですが、共通しているのは皆様、頭が良い。税務の話でも経営の話でも理解が早いので、税理士としては非常に楽なんです(笑)。
あと、仕事熱心、かつ、優しい方ばかりですね。この先生のために頑張ろう!って、自然に思えるんです。

市村:なるほど。言われてみればそうですね。 皆さん、賢くて、優しい。
佐藤さんから見た動物病院業界の課題はどんなことでしょうか?

佐藤:大きく2点あります。
まずは、人の問題。
動物病院で働く人のうち、獣医師さんと、獣医師さん以外のスタッフさんとでは、背景が全然違うんです。育った環境や学力、価値観や、常識の捉え方に大きな差がある。この点で、お互いに理解がしあえず、苦労される先生が多くいます。
ただし、これは、先生が経営者として成長していくなかで、自然に解消していきます。そういった先生に話を聞くと「違うのが当たり前という認識を持つことが大事」とおっしゃいます。

つぎに、「経営者と専門家 二足のわらじ」問題。
先ほどお話したとおり、院長先生は、独立した時点で、経営者としての仕事が始まります。専門家としての仕事に専念したいのに、お金の問題、人事の問題、集患やクレーム対策、税金や訴訟等々、これまで経験のない課題、問題が山盛り大サービスで日々、目の前に現れます。このことにほとんどの先生は戸惑います。
稼げているのに、医院を閉じたい、という先生さえいらっしゃいます。

そんなときは、一人で悩まずに、経営者仲間や税理士に相談したら良いと思います。付き合う仲間は、獣医師さんに限定しないほうがおすすめです。視野がぐっと拡がります。
そして、どうしても経営の仕事が嫌になったら、ストライクさんに相談しましょう(笑)。

市村:そうですね。
医院の売却は、全然ネガティブなことではありませんからね。
今日はありがとうございました。

佐藤:こちらこそ、貴重なお時間と情報をありがとうございました!

まとめ

  • 動物病院はM&A向いている業種
  • 慎重に行わないとスタッフの離職につながる
  • 医院の買い手は、同業とは限らない
  • 仕組み化や各数値の把握が、将来の高額事業譲渡にもつながる
  • 税理士法人YFPクレアの佐藤税理士は良い税理士なので、顧問の依頼を検討した方が良い。まずはお気軽にご連絡をしたら良いと思う。

最後までお読みいただきありがとうございました!

では、また!

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投稿者プロフィール

佐藤
佐藤
税理士 
税理士法人YFPクレア渋谷オフィス オフィス長

1979年埼玉県生まれ。
獨協大学 法学部卒
2008年株式会社YFP総合会計入社(2009年税理士法人YFPクレアへ転籍)
入社以来、多くのスタートアップ企業の創業に携る。
得意分野は金融機関対策、事業計画、事業承継。