開業に向けて準備、勉強をしていると、このテーマにぶつかることでしょう。
医院の経営を「個人事業主」として行うべきか、「法人」として行うべきか。
本日は以下の順番でお話します。
- そもそも個人事業とは何か、法人とは何か
- 開業最初の2年間は個人事業で、3年目から法人とする先生が多い
- どう判断するか
実際、税理士法人YFPクレアも多く助言が求められており。
動物病院税務特化チームにおいては、獣医師の先生から100%この相談をいただきます。
以下、解説をしますが、実際の判断は個別具体的にシミュレーションを行う必要があります。
先生お一人で行うのではなく、税理士等の専門家に相談することをお勧めします。
信頼できる相談相手にいない方は、私にご連絡ください。
satoh-akifumi@tkcnf.or.jp
税理士法人YFPクレア 佐藤
① そもそも個人事業とは何か、法人とは何か
医院を、個人事業として経営するにしても、法人として経営するにしても、普段行う業務や提供するサービスに違いはありません。
変わるのは、税金や社会保険の取り扱われ方です。
法人は、例えるなら、医院の売上や経費、設備などを一旦入れておく箱のようなものです。
会社の売上や経費、設備などを先生個人から分離して、法人という箱の中で管理する。
法人経営の肝は、その箱のなかで生まれる儲けを、適正かつ上手な方法で先生個人に移す、という作業です。
移す方法は、毎期毎期の役員報酬、配当、退職金などがあります。
話を分かりやすくするために、細かい話は抜きにして、以下でやや雑な説明をします。
・個人事業
個人事業は、1年間、動物病院経営をやってみて、結果生じた利益に対して所得税、住民税が課税されます。
個人事業は、事業で生じた利益に対してダイレクトに課税されるイメージです。
利益から税金を課された後の残りのお金が先生の取り分であり、先生はこの取り分で生活をします。
・法人
法人は、1年間の事業年度の最初に、おおよその利益を予測し、先生ご自身の1年分の取り分(役員報酬)を先に自分で決めます。
先生個人に対しては、この役員報酬に所得税、住民税、社会保険料(個人負担分)が課されます。
法人に対しては、上記の先生の取り分(役員報酬)を経費とした上で残った利益に、法人税(地方税含む)が課税されます。
②開業最初の2年間は個人事業で、3年目から法人とする先生が多い
これには大きく2つの理由があります。
(イ)消費税の免税期間を最大限に使い切りたい
(ロ)経営の見通しを図る期間を取りたい
(イ)消費税の免税期間を最大限に使い切りたい
消費税の細かい規定については、ここでは触れません。
結論、動物病院を開業すると最大4年間(個人事業として2年、法人として2年)消費税の納税を免れることができます。
このために個人事業としおおよそ2年間経営をした後で、法人を設立する方が多くいらっしゃいます。
(ロ)経営の見通しを図る期間を取りたい
開業されるにあたって、多くの先生たちがかなりの時間と手間をかけてマーケティング等行っていることと思います。
しかしながら、実際の売上やカルテ数がどの程度伸びるのか、コストがどの程度かかるのか等はやってみないとわかりません。
なので、最初から法人として医院を経営してしまえば、想定したほどの売上が稼げなかった場合、法人設立のメリットが活かせない(個人事業の方が税金等を小さく抑えられた)という事態も起こり得ます。
これを避けるために、実際に医院の経営をスタートし、1、2年程度、実際の人とお金の流れを見たうえでの判断をしたい、ということです。
また、(イ)(ロ)の他にも、法人は設立にもお金がかかります(30万円程度)ので、少しでも出費を抑えたい開業時においては重い負担となってしまうため、最初は個人事業でスタートしたいということもあります。
※法人は畳むのにも同じくらいかそれ以上のお金がかかります。
③どう判断するか
(イ)最もポピュラーな判断基準
1事業年度における、税額等(税金と社会保険料)の比較が最もポピュラーで重要な判断基準と言えます。
個人事業と法人を比較するための法人成りシミュレーターは、書籍やインターネット上で公開されています。
多くの法人成りシミュレーターは、同売上、同コストであった前提における1事業年度の下記(A)と(B)とを比較して、小さい方を有利と判定する単純なものです。
(A)個人事業の場合の、所得税、住民税、社会保険料
(B)法人の場合の、法人税(地方税)、所得税、住民税、社会保険料(法人負担分と個人負担分)
これは、簡単に言うと
・法人にした場合に活かせる役員報酬にかかる給与所得控除のメリット
と
・法人にした場合に増加する社会保険料の負担コスト
の比較です。
法人の場合は、利益を個人と法人に分散させ、それぞれに課税させる格好になります。
役員報酬の金額の設定を行うという点において、課税される利益に間接的にではありますが、経営判断が加わることになります。
このときに、先生の役員報酬に対する課税時に給与所得控除(給与所得者の言わば概算経費)という所得税上の特典が効果を発揮します。
これは個人事業にはない大きなメリットです。
一方で、法人は、その規模に関わらず、役員及びスタッフを社会保険に加入させる義務があり、支払った給与に応じて決まる社会保険の額の約半分を負担しなくてはなりません。
この負担はかなり重いものになります。
(ロ)長期的な視点
上記(イ)のシミュレーションに加えて、長期的な視点を加えることもお勧めします。
単純なその年その年の税額比較だけでは考えられない部分があるためです。
(A)役員退職金
①でお話した「その箱(法人という箱)のなかで生まれる儲けを、適正かつ上手な方法で先生個人に移す」方法は、役員報酬だけではありません。
例えば、役員退職金があります。
その事業年度において法人で見込まれる儲けを試算し、先生が取っていい範囲の金額を計算したら、
これを全額役員報酬として支払うのではなく、先生の勇退時にもらう役員退職金の準備金とするのもいいでしょう。
所得税法上、退職金については退職金控除等、給与所得控除以上の大きな特典が用意されています。
これを想定して、倒産防止共済や生命保険を活用して資金をストックしておき、勇退時に退職金として受け取るとトータルの税金等は相当抑えられるはずです。
(B)M&Aを想定する
先生が勇退しようとするとき、医院を第三者に売ってしまう、という選択肢もあります。
この時に、少しでも高額で売るためには、法人の方が有利ではないかと私は考えています。
詳細な説明は長くなるので省略しますが、法人の財務諸表には、医院の通算成績が数値として記載されている、というのがそう考える大きな理由です。
M&Aについては、勇退時まで待たなくとも、「自分は獣医師ではいたいけど、経営者はもう辞めたい」と考える先生も少なくなく、この場合は、自分の医院を第三者に買ってもらい、その後は、その医院で従業員(支店長)として働く、というパターンもあります。
(ハ)その他
法人成りのメリットは、ここまで上げてきたものの他にも多くあります。
主なものとしては下記のものです。
- 借上社宅(先生のご自宅が賃貸物件であれば家賃の一部を経費にできます)
- 生命保険の経費算入
- スタッフ採用時のアピール(個人事業より法人の方が、採用の応募が集まるやすい傾向があります)
長くなりましたが、結論、開業時は個人事業主でスタートし、2年目の終わりが近くなったらシミュレーションを行う、というのが今のところのおすすめです。
※以上は、院長先生=唯一の出資者(株主)=代表者(代表取締役や代表社員と呼ばれます)であることを前提にしています。
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次回は
⑸専門家としての矜持と経営者としての成功
⑹いくら稼げばあなたの医院は継続するのか
についてお話します。
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話してほしいテーマ、個別の相談があればお気軽に下記メールアドレスまでご連絡下さい。
satoh-akifumi@tkcnf.or.jp
佐藤
動物病院税務特化チームを持つ税理士法人YFPクレアの動物病院の税金、税務、経営コラム
次回もお楽しみにお待ちください。
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投稿者プロフィール
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税理士
税理士法人YFPクレア渋谷オフィス オフィス長
1979年埼玉県生まれ。
獨協大学 法学部卒
2008年株式会社YFP総合会計入社(2009年税理士法人YFPクレアへ転籍)
入社以来、多くのスタートアップ企業の創業に携る。
得意分野は金融機関対策、事業計画、事業承継。
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